阿部和重の芥川賞受賞作

多芸な作家だなと感じた。一人称を取っているためか私小説的な趣きもあり、もし芥川賞に人格があるなら、「芥川賞君」は「こういう作品ってオレの好みだなあ」と言うのではないだろうか。「シンセミア」の読後感では「文章が雑」などと書いたが、この作品の文章は緻密です。

ラストに仕掛けがある。作中では二人の少女が演劇を発表するのは「1月19日の日曜日」で、それに向けて「わたし」が指導を引き受ける。

そしてクリスマスの日、「わたし」は稽古の後二人に渡すべく、プレゼントを用意するのだが、その後直ぐに、開演時間が迫り満員の客席が静まり返っているという描写が続く。

もちろん、ここで「開演」するのは実際の劇「勿忘草」ではなく、「わたし」と二人の少女との間で演じられるべき「劇」のことだ。だからスタッフは不在だし、客席は静まり返っている。

しかしこの部分、臨場感たっぷりで、読んでいて一瞬時間がワープしてしまった。やられましたね。

明日本屋に出かけて、「インディビジュアル・プロジェクション」を買ってくることにします。

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